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日覺昭廣の名言50件

日米のような先進国市場が今後、拡大していくわけではないので、製品の価格が今以上に上がることはあり得ません。そうだとすれば、コストダウンしか利益を生み出す方法はないでしょう。
東レは個人株主が3割程度を占めますが、長期的視点での素材開発に取り組む我々を許容してくれています。米国ではこうはいかないでしょう。投資家は財務諸表ばかり見ているため、短期で儲かる会社にしか資金が集まらない。デュポンだけでなく、ベンチャーですらそのような状態なのです。
炭素繊維は研究予算だけで1400億円を投入しました。確かに我々は相当しつこいかもしれません。ただその間、どこにも採用されず、赤字を垂れ流していたわけではありません。最初はテニスラケットやゴルフシャフト、釣りざおなどに使われ、そこで生産技術を磨いてきました。
炭素繊維の研究チームの合言葉は最初から、「黒い航空機を飛ばそう」でした。軽量化の利点は大きいけれど、安全基準は厳しい航空機への採用という長期ビジョンを決め、それに向けて中期課題に取り組む。そうすれば「木を見て森を見ず」の状態には陥りません。
当たり前の話ですが、革新的な素材は誰も見たことがありません。日本で初めて合成繊維のナイロンを販売した時も、五輪金メダリストのスキー選手、トニー・ザイラーのスキーウエアや、「ミニスカートの女王」と呼ばれたツイッギーのパンストを作るといったプロモーションやマーケティングまで、東レ自身が手掛けました。
これまで当社は、風車のブレードなどに使われる中級品には決して手を出さないようにしていました。グラスファイバーなどと競合することになり、自社の高機能品の価格を下げることにつながるからです。しかし昨年、炭素繊維大手の米ゾルテックを買収し、状況が変わりました。彼らが手掛ける比較的安い炭素繊維を使えば、新たな市場を徹底的に攻められるようになります。自動車向けは今後2~3年でかなり伸びるのではないでしょうか。
趣味の世界では、なんぼでもお金を払ってくれる人がいます。もちろん会社を支えるほどの利益にはなりませんが、そこで細々と培ってきた技術の積み重ねが評価され、当初の目標である航空機への供給が決まりました。
炭素繊維の開発時、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣り竿などから始めたことについて語った言葉
合弁会社にすると、互いに相手の懐に手を突っ込みたがるでしょう。うまくいかない時なんかは特にそう。せっかくの関係が崩壊してしまいます。それよりも別会社という形を維持したまま、強い者同士が手を組んだ方が相手の領域を委ねられ、より力を発揮できると思います。
東レのコア技術は何かと言えば、合成繊維を作り出す高分子化学であり、有機合成化学なのです。繊維以外の分野に展開できる応用力もあります。この技術を捨てて、短期的に儲かるからという理由だけで別の事業に飛びつくことは、我々には恐ろしくてできません。既存事業と関係ない領域でM&A(合併・買収)を行わない理由もそこにあります。
現場を理解している経営者がいなかったら、東レは繊維をやめていたかもしれない。そうなっていたら、今の成長は手に入らなかった。何も特徴がない、つまらない会社に成り下がっていただろうと思います。
市場がなくなってしまった領域では撤退というか、事業をやめるしかありません。ですが、市場が存在し続ける限りは、撤退なんてあり得ません。苦しい時を耐え忍び、20~30年待っていると、国内海外問わず優秀な人材が育ってきます。それは何にも代えがたい財産になるからです。
ソニーや富士フィルムがビデオテープを作るからと言ってついていき、私自身も米国のフィルム工場の立ち上げに関与しました。しかし、工場が完成する時期には、儲からないからと彼らはいなくなっちゃった。どうしようと慌てて、必死になって工業材料や農業向けに、フィルムの用途開拓を進めました。現地法人の今の社長は、それだけでは量が確保できないということで、徹底的なコストダウンにも乗り出しました。「ウォールーム」という部屋を作り、営業と生産の担当者が生産設備ごとに日々の限界利益を把握。固定費と合わせて分析できる仕組みを浸透させ、高収益会社に変わりました。
我々の場合は得意分野や経営資源を生かせるかどうかというところに主眼を置いています。欧米企業のように、短期的収益の拡大のためにシナジーがなくても高収益事業を買収するという考えはありません。
我々は製品ごとに最強パートナーと組んでいるため、M&Aを仕掛けるイメージがないかもしれませんが、いい案件があれば積極的に動きます。
M&Aには条件があります。まず、我々のコア技術を生かせる領域であること。次に、シナジーを出せること。さらに、その市場が大きくなること。いくら我々が強くても、市場が大きくならなければ仕方ありません。炭素繊維や繊維など世界一の事業を強化するために、こうした条件に合致するものがあれば投資を惜しみません。
欧米では短期の利益を求めるのに対して、当社は常に長期的な視点に立った経営を意識しています。繊維、炭素繊維、水処理はその代表例で、いずれも短期的な収益を重視すれば、間違いなく撤退していた。事実、欧米企業は軒並み撤退しています。
米国駐在の経験も日本的経営を考える礎となっています。当時、東レより条件が良い会社に転職する従業員が何人もいましたが、転職先の会社の業績が悪化するとたちまちリストラされました。彼らはリストラの対象にならないために自分のポストを必死で守り、技術の伝承もしない人たちでした。
我々は、米国においても業績悪化でリストラしたことはありません。それが従業員の信頼につながり、技術の伝承や蓄積にもつながります。米国で当社に勤め続けている社員にはそれの良さが伝わっている実感があります。
株主だけでなく、顧客、取引先、地域社会、従業員といった関係者全般の貢献を重視し、持続的に成長していく点は日本的経営の良さです。我々はそれを実践してきましたし、これからも自信を持ってそうした経営を貫きたいと思っています。
1980年代に繊維事業の縮小が議論された際は、当時役員だった前田勝之助氏が強く反対しました。それは前田氏が国内外にある生産拠点などの現場をくまなく回り、競争力を高める余地が残っていることを把握していたからです。
日本の製造業で苦戦している企業を見ると現場での課題の追究が足りないのではないか、と感じることがあります。競合他社や市場環境に左右されている面は大きいと思いますが、課題が分からなければ対策を立てられません。答えはすべて現場にあるのです。
川下までサプライチェーンを伸ばすことで、川上に安住していた社員がマーケティングの発想を持つようになりました。川下のメーカーに新素材の使い方はなかなか分かりません。営業の社員は百貨店など販売の現場を回って消費者目線を持つことで、次々と新しい素材の使い方を提案できるようになったのです。
医療分野で、人工腎臓透析器の販売が伸び悩むという課題を抱えている時期がありました。担当者は病院を攻略するためにいくつもの対策を出してくるのですが、どれも説得力がない。そこで、「既に買ってくれた病院に行って、その理由を聞いてこい」との指示を出したところ、事実の徹底究明からヒントをつかみ、販売を伸ばすことに成功しました。
原因究明で最も重要なのは事実の整理なのです。事実は氷が水に浮いているようなもので、一見して分かるのは1割ほど。水面下の9割について徹底的に調べることで全体像が見えてきます。
何か大きなプロジェクトを動かす際は、現場に精通する「うるさ型」の人材をあえて入れるように心掛けています。現場の事実を反映しやすくなりますから。
私は「for the company」という理念を掲げています。上司のためではなく、会社のためにどんどん意見して、働いてほしいという意味を込めています。「会社のため」は英語の方が言いたいニュアンスに近いと思っています。
東レの成長は今や、パートナーとの協業なしには考えられません。主力の繊維事業はユニクロとの協業をきっかけに、事業が拡大しました。外部の企業などとパートナーを組んで技術を開放すると、思わぬ化学反応によって技術革新が起こります。まさにオープンイノベーションです。
ユニクロには商品企画やマーケティングのプロフェッショナルがいて、東レの技術陣への要望は非常に厳しい。東レの営業担当者に「こういうものを作ってくれ」と言われても、技術陣は「そんなものは作れません」と答えて話は終わってしまうかもしれませんが、パートナーの担当者からの要望には応えないわけにいきません。社外のプロと社内のプロの妥協のないぶつかり合いから、新しい価値が生まれるのです。
繊維だけでなく、様々な分野でオープンイノベーションを展開しています。航空機向け炭素繊維では米ボーイングと、自動車向けでは独ダイムラーと、スマートフォン向け電子材料では韓国サムスン電子などと協力関係にあります。いずれも各業界を代表する企業。まさに最強パートナーに技術や事業が磨かれる体制を敷いているのです。
ボーイングの懐に入ったことは大きな収穫でした。米国でボーイングの近くに材料供給のための生産拠点を作り、そこにボーイングのエンジニアがほぼ常駐して、一緒になって技術開発に臨みました。航空機ならではの厳しい要求に必死で応え、技術ノウハウを蓄積していったのです。炭素繊維を使うための共通言語ができるのも大きいと思います。他社が入ってきて、このレベルに達するまでは、かなりの時間と労力が必要でしょう。
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