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西成活裕の名言42件

博士課程の頃は生活も苦しかったですね。と言うのも、私はいつか研究者として独立するのだから、と親に仕送りは要らないと言っていたんです。それでもう極貧になっちゃった。割のいい家庭教師のアルバイトが見つかるまでは、風呂は週に一回、素麺一束で7日間は生活する、月末の3日間は仕方がないから醤油を薄めて飲もう、なんて毎日でしたので。銭湯は「高い」から、普段は洗濯機の中に入っていました。そのうち、家賃も払えなくなり、経済的にゆとりのある友人の家の倉庫を使わせてもらうようになりました。ガスなし、水道なし、家賃ダダで3年ぐらい耐え、倉庫の隣のホカ弁屋さんで、賞味期限の切れた商品をもらっていたな。
もともと数学と物理など理論が好きだったので、航空の分野において一番理論っぽいものをと思って「流体力学」というジャンルを選んだんです。ただ、これは空気や水の流れを研究する物理学で、数学的に難しい。200年以上前に基礎ができあがり、頭のいい人たちがいろいろやり尽くしているわけです。研究をはじめても、二番煎じと思うことばかりで、競馬で言うなら「穴狙い」にもなりました。流れの勉強をしたので、どうせなら誰もやっていない流れってないものだろうかと探したんです。渋滞という流れを研究するようになったのも、あるときに車や人の流れを見ながら、この処理に自分の勉強が使えるんじゃないかと思ったからでした。そこからは、頭の中が渋滞の方向にシフトしてましたね。途中までは、表では航空の分野で流体力学の研究を地道に続け、裏で渋滞研究を重ねる。あるときに「渋滞学」というものをやっています、とカミングアウトしたわけです。
はじめに研究したのはプラズマという流れでした。水や空気という流体を研究するのってたいへんなのですが、そこに、電磁気や電気や磁場などが混ざったグジャグジャなものをやるとなると、まだやられていない研究になってくれるんです。数学や物理の世界には分野ごとの特徴があります。複雑に絡み合った非線形の分野はむずかしい、だとか。流体力学で電磁気が入っていて非線形で、というのは「これだけ組みあわせたら、たぶんやられていない」という予想通りだったけど、むずかしすぎました。研究はいきなり三重苦みたいな状態になっちゃった。でもやりがいはあったわけです。その分野を、4年か5年ぐらいはやっていました。
選んだ研究は難しいだけに、たまに問題が解けるとうれしいんです。でも、ほとんど解けなかったから、当時の私は暗かったですね……。一年間で365日あるうち、だいたい360日ぐらいは暗いんです。でも、一年のうちでたった数日ほどは、太陽の日が射すように思える日があった。その感激と言ったら潜水艦が深海から急に浮上していくみたいなところがあった。そういう感覚がなければ研究者って長くはやっていけないのではないでしょうか。
あるひとつの分野で研究を重ねて究める。そういう人は割とどの分野にもたくさんいるわけです。ただ、あるひとつの分野をやったあとに別の分野に飛びこんでみる。すると、ひとつの分野だけをやっていても見えてこなかったものに気づいたりもするんです。
私はいろいろな分野で勉強をやってきました。流体力学の中でも、いわゆる流体力学とプラズマ物理学の世界はまたちがっていたりする。そうした違う分野を渡り歩くと、違う分野どうしをつないで、それぞれの分野の技術を使えるようになります。それぞれの分野に入りこんでみないと、その分野の方法論は体にしみこむようにはわからないのですが、そういうものを3つか4つの分野でもがいて掴みとって新しく組みあわせる。それが私の研究のやり方になりました。
ひとつの分野で30年ぐらいもがいて何かを掴みとるのも立派ですが、私の場合にはその「新しい組みあわせ」が研究のミソでしたね。すると、流体力学の話題の中で、プラズマのある状態を、非線形数学を使って記述するというのは、世界中の物理学者たちの中でも私だけがやっていることになってくれたわけです。すでに大勢の人がいろいろなことをやってきた分野で、若い人が結果を出そうとするなら、どうしても「まるで違う分野にいって、そこで輸入してきたものをくっつける」というやり方が必要なんです。
一回、ひとつの分野で究めて他の分野に取り組んでみると、行き詰ることや難しいことって似た傾向があるんですね。「あのときに苦しんでいたあれか」と体験を置き換えられる。それで割と効率よく研究を進められるようになるんです。
世界中に、あるひとつの分野の専門家というのは、過去から累積させたらもう何億人もいるわけです。それなら、他の分野に出てみなければオリジナリティなんてつかめない。それが私の発想でしたけれど、具体的に何をしたのかと言うと……まずは有名な先生の交友関係を洗うことでした。すると、結構近い分野なのに、交友がないという先生どうしを見つけたりもできる。それなら、その分野の方法論を組みあわせることはまだやられていない可能性が残されているのです。
アイデアの出し方は、ベッドの枕元に常に紙と鉛筆を置いておくんです。パッと起きがけに何か思いついたら、まわりが真っ暗でも必死になってそれをメモする。また、本当にどんなことでもいいから、それこそ「渋滞」という課題でも興味のある数式でも何でも、紙に書いて箱の中に入れておくんです。その中から2枚をパッと取って、結びつけてアイデアにできないかという練習をするわけですね。そういう発想法からも、ある分野に別の分野の方法を持ちこめば、ほかの人がまだやっていない研究になるということはわかっていました。
有名な雑誌に掲載されるには、インパクトのある研究でなければいけないようでした。それでは、インパクトがあるとされるものの正体は何だろうか?そこで私は、「社会の難問を解決することである」と考えて、私はかつて大学の学部生だった頃の授業で、これはまだトヨタもホンダも解明できていないと聞いていたベルト問題に目をつけました。車をはじめ、ベルトが使われていない機械部品はほとんどないのに、動きの解明はまだできていなかったんです。この論文のおかげで、私は山形大学の次には関西の龍谷大学の助教授になることができました。
知らない分野の専門書を読むときには、友達と話をするのが大事ですね。専門書をただ読んでいてもわからないときには、その分野を専攻している人に直に話を聞けばすぐに解決することも多いですから。幸い私は東京大学にいたので、まわりには本当にすごいなと思える友達がゴロゴロいました。その問題なら自分は2年か3年は悩んでいたから、それについて困っている人がいたら、コツを伝えてあげたいと思っていたんだ、なんて教えてくれる。ありがたいですよ。
私は、ほとんど知識がなかった生物学の分野で、たった2年間の勉強で、有名な科学雑誌に論文を載せることができたのですが、それも生物学を専門にしている友達と酒を飲んで、あれこれ話を聞かせてもらったおかげなんです。だいたい、本を読んでいて詰まるところって、執筆者も書くのに詰まっていたりするものなんです。だから、わからないときって、結局はいい本やいい人に教わっていないだけなのかもしれないですよね。
山形大学にいた時には、国立大学ですから先生ひとりにつく学生は3人が限度でした。でも、私立の龍谷大学の場合には、ひとりで学生を10人も担当するんですよね。大変だな、と面倒に感じる先生もいるけど、やりたい研究だらけだった私にはそれがとてもありがたかった。毎年10人の学生にいろいろな角度から研究をやってもらい、6年いたから60人分の研究成果が手に入りました。学生も、まだ学部の4年生なのに、あちこちの大学から大先生が来て発表する学会で、並んで自分の発表をするとなれば能力を発揮してくれるんです。
いまは、博士号は取れたけれど就職がないという、いわゆるポスドクの問題があります。これは、国の政策で博士が急増したのに教員として雇う人数は前と変わらないというところから来る、典型的な渋滞現象ですよね。私にも不遇時代がありましたから、その独特のつらさについては想像ができますが、予算も立場もなく苦しんでいる人に私が言えるのは正論だけで、もう頑張るしかない。一発逆転のために論文でヒットを打つしかないなら、腐っている場合ではないですよ。
研究の成功にしても、大半は膨大な失敗の蓄積から作られるものです。飛躍のためには、いったん、グッと屈まなければ……屈んでいない研究者って、迫力もないものですからね。
私が不遇時代に痛感したのは、科学者というのは発見によって社会にロマンを与えると同時に、社会にとって切実な難問を解決する存在にならなければいけないということです。長年の研究成果と言われるものも、たいてい特定の業界の中での閉じた発見ばかりなんです。それでは、外の世界からの評価はもらえない。そして、評価のない研究というのは継続さえできないものです。
結局は、テーマに何を選ぶのかが研究の肝と言えるのではないでしょうか。ただ、私は学部生の時代から、先生にはテーマをもらわないようにしていました。先生なしではテーマも決められないようになるからです。
車間距離がないと渋滞するということは、仕事にも言えるんですよ。間断なく詰めこんだ仕事は安定していないからこそ、ちょっとした理由で前の予定が滞ってしまえば、あとの仕事も、あとになるほどズレが重なって予定の渋滞が増幅していくんですね。だから、私は仕事の前後にはいつも30分は間隔を空けてボーッとすることにして、仕事の渋滞を防いでいるんです。
仕事というのは、どうしても優秀な人に集中します。「職員の残業をなくす」を目標に、東大の事務改革をやっているのですが、調べてみると、残業が多いのはいつも同じ人なんです。「自分しかできない」と思い込んで、何でも抱え込んでしまうんですね。そこで私はそうした職員に、「絶対に自分しかできない仕事」と「誰でもできる仕事」を分けるように頼みました。そして後者は、残業していない人に振り分けました。「その人にしかできない仕事」というのは案外少なくて、「ほかの人でもできる仕事」は、本人が思っている以上に多いということですね。
残業を減らすためにすぐにできることは、残業の5W1Hを洗い出すことです。「誰が、何を、いつ、どこで、なぜ」残業したのかを徹底して調べて、「どのように」改善できるかを考えます。たとえば、ある職員に残業の理由を聞いたら、「教授から問い合わせの電話が入って、対応に時間がかかってしまった」という。続けて、「なぜ問い合わせがきたのか」と聞くと、「書類の記入方法がわからないといわれた」と。では、なぜ記入方法がわからなかったのか。それは「書類のフォーマットがわかりにくいから」です。だったら、その書類を改善すればいい。
「なぜ?」を繰り返すと、根本的な原因がみえてきます。何段階にもわたって考えを深めていくことを「多段思考」といいますが、これが苦手な人は多いですね。たいていの人は「一段思考」で思考停止してしまう。
トヨタの生産方式に「外ダンドリ」という言葉があって、仕事に必要な段取りを業務時間外に済ませるという意味なのですが、これが上手な人が仕事も速い。
一日の終わりに翌日の準備をするのも重要ですが、もっと重要なのは「前日の仕事のやめ方」です。仕事をキリのいいところで終わらせるのではなく、あえて「もう少しで仕上がる」というところで切り上げる。これなら、やるべきことがわかっているから、翌朝に仕事を再開する際もすんなり仕事を始められますし、流れに乗って、その後の仕事もスムーズに進みます。「小さな仕事を始めると、自然と加速がついて、大きな仕事も動かせるようになる」という物理における「慣性の効果」を、仕事でも期待できるわけです。
何をもって「仕事が速い」とするかは、長期的な視野に立つか、短期的な視野に立つかで、まったく違ってくると思います。輩たちが敷いたレールの上を進めば、それなりに速く走れるし、短期的にみれば、仕事も出世も速いかもしれません。でも、自分にしかできないオリジナリティーのある仕事を成し遂げたいなら、一見すると非効率に思えるような試行錯誤の時間が絶対に必要になる。前例のないところから、まったく新しいものを生み出すわけですから、時間も手間もかかります。
渋滞学を生み出すまでには時間がかかったし、たいへんな苦労もしました。でも、その非効率な積み重ねがあったからこそ、レールに乗って先に進んでいた人たちを、追い抜くことができたのだと思っています。自分は「長期的にみて仕事が速い人」になりたいのか、「短期的にみて仕事が速い人」になりたいのか、一度じっくり考えてみることも必要ではないでしょうか。
数字の使いどころのひとつは、未来の可能性を示して予測することにあると考えています。バブル崩壊などの急激な変化が起きてから裏付けの解説をするのではなく、変化が起きる前に予測することができれば、そのほうが遥かに役に立つはずです。複雑な現実を、より正確に反映したモデルを構築して、それを解くことができれば、予測実現の可能性も高まりますし、実際にそうした試みは一部で成功しつつあります。
データを見て現象を理解するには、表面的な部分だけでなく、数字の裏を読まなければならないことがあります。こうした疑う力こそが科学者のノウハウであり、科学上の発見は、疑うところから始まってきたといえるのです。
日本人の平均貯蓄額は1657万円(2人以上の世帯当たり、2010年)とされていますが、これにはからくりがあります。数学的にいえば、貯蓄額では「平均値は存在しない」かもしれないのです。平均値は貯蓄総額を世帯数で割ったものですが、一部の莫大な貯蓄を持つ層に引っ張られると、一般的な感覚からかけ離れた数が平均となり、意味をなさなくなることがあります。
数字はとても客観的なもののように思われがちですが、実態を反映しない数というのもあります。一般に慣れ親しんでいる「平均」も実は曲者です。平均という指標は実は疑うべきもので、実態を把握するには分布そのものを見るべきなのです。
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