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内田和成の名言54件

私は1985年初頭にそれまで勤めていた日本航空を退社して、ボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社しました。ひとつの会社の中でコツコツと力を蓄えながら出世していくような人生は面白くない、自分の力を限界まで出し切るような挑戦をしてみたいと考えての選択です。当時はそのような言葉はありませんでしたが、まさに「市場価値」だけで評価される世界を求めて飛び込んだわけです。
経営コンサルタントというのは、顧客に価値を提供できなければ退場させられます。また、社内に自分と同じ分野でもっと優秀な人がいる場合も同様です。あからさまに退職を迫られることはなくても、自分自身で市場価値がないことを認識し、辞めていった人を何人も見てきました。そのような厳しい世界にずっと身を置いてきた私ですが、ビジネススクールに通う社会人や学部の学生などが自分の市場価値を高めることにばかり目を向けているのを見ると、疑問に感じることがあります。MBA(経営学修士)や公認会計士の資格を取得するなどして専門性を磨けば、すぐにその資格や能力に見合う仕事が与えられると考えている人が少なくありません。でも、実際には資格や能力だけで会社の中で活躍できるとは限らないのです。
財務や法務といった専門性の高い部署でも、会社は将来幹部となる人材について複数の候補者を育てながら、競わせるものです。仮に自分より年次がひとつ上のライバルがそのポストに就いたとしたら、次にその席を得るのは難しいでしょう。専門性はあってもつぶしが利かないような人だと、他の部署に異動しても活躍できる場を見つけられないかもしれません。
今いる会社の中で重要な役割を与えてもらえなければ、どんどん外に出ていこうという気概を持っている人ならば、市場価値を磨き、自分を正当に評価してくれる場を求めればいいでしょう。でも、そこまでの覚悟がなく、ひとつの会社にある程度長くとどまるつもりなら、私は「企業内価値」とでも呼ぶべきものにも目を向けるべきだと思うのです。
企業内価値とは、その会社の中で発揮される価値です。意思決定がどういうプロセスでなされているか、あるいは社内のどこにキーマンがいて、どこを通せば話が進みやすいか、といったことをどれだけ把握しているかなどで決まります。「うちの会社は品質に関しては絶対だ」とか「何よりデザイン重視」といった企業ごとの社風や文化への理解度も挙げられるでしょう。そういった企業内価値が高い人材は社内のプロジェクトを任された際に、様々なリソースをうまく使いこなすことができ、それが評価されて結果的に昇進も早くなることが多いものです。
単なる「ゼネラリスト」ではなく、何をやらせても一定以上の成果を上げることができなければ会社の中でも通用はしません。バランスよく能力を磨いていくことが、自分の価値を高めるうえで重要だと思います。
グーグルなどのサイトや、商業データベースで検索すれば誰でも手に入る情報。
その情報に自分の経験から得た話や考察を少し加えた情報。
直接人と話し現場で見聞きした自分しか知らない情報。情報には三通りある。私が特に重視するのは3つ目の自分だけが知る情報だ。これらを集めるために、人にも勧めているのが「アナログにこだわる」ことだ。
インターネットでの情報検索は便利ではあるが、短時間で基本的な情報を集める程度にとどめるようにしている。ネット上の情報源やその検索方法は、ビジネスパーソンなら最低限知っておくべきだが、誰もが集められる情報だけでは、創造的な発想や思考を生むのは難しい。
電車内は、私にとって情報収集に格好の場所だ。新聞や本を読み、吊り広告を眺める。新聞を読んでいて思いついたことは、新聞の余白に書き込む。読む本は勝負師に関わるエッセイやカリスマ営業マンの本など、仕事には直結しない雑学の類が多い。面白いと思った個所には線を引くか、ページの端を折っておく。本を読めないときは吊り広告を見て、世の中の動きやトレンドをつかむ。
情報の収集と分析をデジタルに依存することの弊害は、たいした仕事をしていなくても「仕事をした気分」になってしまうことだ。誰もが知る情報を切り貼りし、最新のツールで体裁を整えても、内容に付加価値がなければ人の琴線には触れない。
よく「ビジネスマンが読むべきものは何か」と聞かれるが、一律の答えはない。特定の目的で情報を集める場合は別だが、自分の感性に合うものを読めばいい。5分しかない日は5分を使った読み方、週末など時間があれば1時間を使った読み方をする。読むべきものや読み方を固定せず、感性の赴くままに目に留まったものを読めばいい。
コンサルタントの仕事をはじめた頃は、手当たり次第に情報を集め、様々な情報整理術を試した。だが、それでは情報の「収集」と「整理」で手一杯になってしまい、肝心な情報の活用がほとんどできない。それならば、完全に「活用」に重点を置き、一番楽で手抜きできる方法をやろうと考えた。
スピードと質の双方が求められるビジネスの現場では、仮説を立て、ものごとを答えから考える「仮説思考」が重要になる。まず「仮の答え」である仮説を立ててから、細かい作業にかかるという方法で、コンサルタントの必須スキルだ。この仮説の立て方は、各人各様で上席はないが、私は突然ひらめくことが多い。
売れるものは消費者に聞く。これがマーケティングの基本的な考え方です。では、消費者の声を聞けば5年後にヒットするものを予測できるのかといえば、残念ながら、そう単純な話ではありません。実のところ、消費者は自分の欲しい商品を良くわかっていない場合が多いのです。
じつのところ、消費者は自分の欲しい商品をよくわかっていない場合が多いのです。仮に消費者に「テレビとラジオが一緒になった製品は便利だと思いますか」と質問したとします。リサーチの結果は、便利と答える人が多いはずです。ところが実際にテレビ付きラジオを開発しても、まず売れないでしょう。機能を複合した商品は事前の調査結果ではいい結果が出ることが多いのですが、これまで複合機でよく売れた唯一の例はラジカセくらいのものでほとんどが失敗しています。
新規事業のコンサルティングで、顧客から「今後、どのような市場が有望か調査してほしい」と依頼されたことがあります。私はこれを「死のパターン」と呼んでいます。膨大な無駄が発生するだけでなく、何も決まらないケースが多いからです。たとえば縦軸に顧客、横軸にその会社の持つ技術でマトリクスをつくり、ひとつひとつの市場性を網羅的に分析したとしたとして、その結果を伝えると「なぜこの市場は小さいと判断できるのか」「このセグメントは、もっと分解できるのではないか」と、さらに分析を要求されます。そうやってタマネギの皮をむくかのごとく調査を重ねるうちに、最初に提案した市場に他社が新規事業で参入したというケースが後を絶ちません。
5年後に実を結ぶかもしれない商品アイデアや仮説を考えるとき、心がけてほしいのは「So What?(だから何?)」です。ある現象や情報に接したとき、そのまま受け止めて終わるのではなく、「だから何?」と、もう一段掘り下げ、もう一歩先の展開を考えるのです。5年後のビジネスのネタは、これを繰り返すことによって浮かび上がってくるのです。
変化する時代で必要なのは、「自分たちは何屋か」「どこに強みがあるのか」という自社の存在理由やコア・コンピタンス(中核的な優位性)を再確認することです。たとえばレコード会社なら、アーティストとの関係を深めて、コンテンツで勝負するのか、それとも従来のブランドを生かして市場側に軸足を移し、ディストリビューター(流通業者)になるのか。その意思決定をしてこそ、技術革新や産業構造の変化に対応することができます。
5年後、従来のビジネスモデルが通用しなくなっている可能性も考慮に入れなくてはいけません。音楽業界では1980年代にレコードからCDへの技術革新がありましたが、レコード会社は既存の垂直統合型ビジネスモデルをそのまま展開できました。しかしCDからインターネットを利用した音楽配信の時代になって、レコード会社は業界の一プレーヤーにすぎなくなり、アップルのような流通側が主役になりつつあります。
新規事業というネーミングは誤解を招きやすいネーミングです。新規事業というと真っ白なキャンバスに自由に絵を描けるような印象を持つかもしれませんが実際は違います。新規事業の99%は、自社にとって新規でも、すでに市場に既存の業者が存在しています。つまり、新規事業の圧倒的多数は、単なる新規参入に他なりません。
新規事業を検討するとき、企業は「そこに市場はあるか」という市場リスクを真っ先に考えます。しかし、新規事業の多くが新規参入ですから、市場リスクの検討だけでは不十分です。むしろ、注意すべきは競合リスクです。花王がエクセレントカンパニーであることは多くの人が認めるところですが、その花王でさえ化粧品分野への参入は困難を極めました。競合の強いメーキャップ分野では苦戦が続き、結局、カネボウ化粧品を買収するまで芽が出ませんでした。いかに新規事業が難しいか、おわかりいただけると思います。
新規事業のリスクを判断するには、シナリオプランニングが比較的取り組みやすいでしょう。未来が確実に予測できるなら、新規事業のシナリオは一本道でいいのです。しかし、現実はコントロール不能で予測のつかない要因にあふれています。シナリオプランニングは、そうした不確実性があることを認めて、リスク要因ごとに複数のシナリオをつくって全体のリスクを管理する手法です。
不確実性を織り込むという意味では、大ヒットではなく中ヒットを狙う戦略も重要です。大ヒットはしょせん水ものであり、リソースを集中的に投下しても成功する保証がありません。しかし中ヒットなら、数を集めることで、リターンとリスクをある程度コントロールできます。たとえば初速が鈍い商品があれば、プロモーション費用を別の商品に付け替えてもいいでしょう。実際、業績のいいレコード会社やゲーム会社は、大ヒットがなくても中ヒットを量産することで利益を出しています。不確実性の高いところに膨大なエネルギーを使うくらいなら、割り切って切り捨てるという選択肢もあり得るのです。
従来の方程式で利益が出なくなったからこそ、多くの企業は新規事業の必要に迫られています。そうした現状を考えると、経営層は従来の評価手法の枠組みを超えて、柔軟な発想で新規事業の成否を判断すべきでしょう。
消費者が実物を見ないと自分のニーズに気づきづらいなら、すでに売れているもの=消費者がニーズを感じているものを確認してから迅速に市場投入するという戦略もあります。かつての日本メーカーは欧米の優れた自動車や電化製品をコピーし、品質改善や低コスト化によって世界の市場を席巻しました。しかし現在では、中国や韓国、ベトナムなど、日本より安く品質でも劣らないものをつくる国が現れたので、そのような方法は難しくなっています。
消費者のニーズが顕在化してからでは遅いのです。しかしその一方で、消費者自身は自分の潜在的なニーズについてよくわかっておらず、それを探るのは容易ではありません。となると、こちらから先に新しいニーズをぶつけて消費者を刺激し、その反応から市場性があるのかどうかを見極める戦略が必要になります。
成功する新規事業は、「これをやりたい」という思い、「これなら売れるはずだ」という仮説やプロトタイプが先にあって、「これをやりたいが、本当にそこに市場はあるのか。競合はどうか」という裏付けを求める形で分析を依頼されます。この方が無駄がなく効率的で、仮説が間違っていても早く修正できます。
ロスチャイルド家が英国金融界でのしあがったのは、ワーテルローの戦いでナポレオンが英蘭連合軍に敗れたニュースをいち早く知り、そのまま受け止めるのではなく、一段掘り下げもう一歩先の展開を考えたからです。連合軍の勝利を知った普通のイギリス人は、単に喜ぶだけでしょう。少し頭を働かせて英国債に飛びつくかもしれません。一方、ロスチャイルドはさらに考えを深め、イギリスが負けたという偽の知らせを流して英国債を暴落させてから買い占めました。善悪は別にして、考えを他の人より一歩進めたことで、巨万の富を築いたのです。
時代の変化を敏感に察知することは大切ですが、軸がふらついたまま5年後を考えても戦略は定まりません。ビジネスのネタを探す前に、まず自社の存在意義やコア・コンピタンス(中核的な優位性)を見つめ直すべきでしょう。
自社が市場を開拓したとしても油断はできません。みなさんはホームベーカリー(家庭用パン焼き器)を最初に世に送り出したメーカーをご存知でしょうか。いまやホームベーカリー市場は年間出荷数43万台に成長しましたが、この市場を切り開いたのは船井電機でした。しかしその後、大手メーカーが続々と参入し、船井電機は早々に市場から撤退を余儀なくされました。市場性が高ければ、他社にとっても魅力的な新規事業になります。たとえブルーオーシャン(競合なし市場)を見つけたとしても、その後の競合との戦いに負けてしまえば元も子もありません。
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